ビジネス英語トレーニング講座❽
交渉術習得に欠かせないディベート訓練
討論とは
英語のネイティブスピーカーさん達とビジネス交渉を英語で行うと、当然、相手方はネイティブなので、言葉の障壁ゼロであることは言うまでもないことですが、さらに特徴的なことは、論理的に話し、聞き手を自分の主張する方向に巧みに引き込んでいく術を持っている人が多いということです。
彼らの多くが論理的な展開を得意とし、聞き手を巧みに誘導する術を持っている理由は、英語圏では、小さなときからディベート訓練を行っていることが大きいと考えます。
ディベートは、あるテーマに関して、賛成する側のチームと反対する側のチームを作って行う「討論」です。残りの人は、オーディエンスとなって、この討論の様子を聞き、どちらの主張がよかったかを最後に判定するというやり方です。
討論を行う過程では、単に主張を声高に述べ続けていても、オーディエンスの賛同は得られません。聞き手の多くをなるほどと納得させるには、論理的な展開が必須です。
日本では、なによりも協調性を重んじているためか、「討論」ということについて馴染みが薄いわけです。国会でも討論と題して議論が行われますが、多くの場合、一方的な主張を繰り返すばかりで、相手側の意見を受けた上で、これを論理的にひっくり返すなどの論法を用いる議員さんは少ないように思えます。
討論の基本は、一方的に自分たちの主張を繰り返すのではなく、相手側の意見をよく聞くところが肝心です。雄弁な方が勝つと思うかもしれませんが、勝ち負けは、必ずしも雄弁さではなく、オーディエンスが「なるほど」と共感できる意見・主張が多くできたかどうかに依存します。
彼らは、幼い時からこうした訓練を受けているので、討論を得意とする方々は多い訳ですが、一方で、オーディエンスとしての経験もたくさん積んできているので、「なるほど」と自分が納得できる話が聞けると相手を称賛する傾向にもあります。
なぜディベート訓練が交渉術習得に欠かせないのか
ビジネスの交渉においては、相互に利害が一致していると、交渉はスムーズに進み、難しい局面などは訪れない訳ですが、多くの場合、いろいろと利害の調整を行う局面が出てきます。
そのときに、譲歩ばかりしていると最初に考えていたような結果は得られないので、仮に提携を実現しても条件は不利なことばかりということなってしまいます。一方で、主張ばかりを繰り返していると、話は平行線となり、相手側が「絶対に提携したい」と最初から意気込んできている場合を除き、交渉は不調に終わります。特に、こちらから話を持ち掛ける場合には、相手を引き込む交渉力が欠かせません。
相手側が「絶対に提携したい」と最初から意気込んできている場合、先方からは様々な提案が飛び出してきます。どの要素であれば、こちらが興味・関心を引くのかを試しているのです。当初、こちらとしては話を聞くだけで、提携を受ける意思はない場合でも、気が付くと相手の術中にはまり、提携の話に応じていたなんてことも大いにありえます。
この術は、一朝一夕では身に付きません。交渉を成功に導くポイントとしては、相手の話をよく聞いた上で、それを否定せずに、さらに、相手が何を述べるのかを聞くことにあります。それを繰り返すと、次第に、相手が納得できる観点が見えて来るので、そこをうまく説明し、説得できると「大成功」となります。
ディベート訓練では、上述したように交渉を成功させる上で必要な要素を含んでいるため、そのやり方を身に着けると、相手の話をよく聞いたうえで、論理的な展開ができるようになるだけではなく、相手側の話の展開方法や思考パターンなども見えて来るので、一石二鳥どころか、一石何鳥もの効果があります。
日本では協調性のある行動をとることばかりに力を入れ、「ディベート」という訓練を学校教育で本格的に実施していませんので、そもそも交渉を苦手とする人が多いのはやむを得ないことかもしれませんが、一度試しに実施してみるとよいと思います。もちろん最初は日本語で実施すればよいのです。
ディベート訓練の手順
討論のテーマを決める
世の中には賛否を二分するような話のネタは山ほどあります。その中から、討論のテーマを選べばよいのです。テーマは、職場が直面している具体的な仕事のテーマでなくても、なんでもよいのです。現代社会の問題だけにとらわれず、歴史テーマでも大丈夫です。
例えば、私の歴史物エッセイ「足利義満と勘合貿易」においては、義満が日明貿易を開始するために、明の皇帝から日本国王の称号を得て勘合貿易を開始したため、世の中から大きな批判を受けたということを紹介していますが、これは「討論」のネタになります。
- 肯定派(Affirmative Side)は、「日明貿易を開始したことによる経済効果、国際的な交流の効果は絶大なものであり、明国皇帝から冊封を受けたことはやむを得ない手段として許容すべきだ」と主張するチーム
- 否定派(Negative Side)は、「我が国においては皇室が唯一無二の存在であり、それを度外視して、日明貿易開始を口実に明国皇帝から冊封を受け、日本国王の称号をうけることなどあってはならないことである」と主張するチーム
肯定派と否定派に分かれて討論するという感じです。
テーマが決まれば、実際に討論を行う時間、例えば、1時間の研修時間であれば、40分間の討論、20分間の評決・講評等のように時間割り当てを決めます。
時事コラム・表裏一体の「表」だけ述べる話術においては、選挙の一票の格差の問題に着目し、格差是正の更なる進展か、あるいは地方の意見を反映させることの重視かといったテーマで解説していますが、こうした話題も「討論」のネタになります。
- 肯定派(Affirmative Side)は、「議員一人当たりの有権者数に関する格差については、憲法が保障する法の下の平等に反するとして、選挙の無効を求める訴訟が繰り返し提起され、最高裁判所も、著しい格差が生じた場合に、違憲あるいは違憲状態とする判断を示しており、一層是正すべきだ」と主張するチーム
- 否定派(Negative Side)は、「地方の都道府県では小選挙区が2つしかないところもあり、地方の声を国会に反映させる仕組みがますます遠のいており、地方選出議員が本当にこのまま減って、国会議員まで東京一極集中でいいのかという問題意識の中、格差是正よりも地方創生を優先すべきだ」と主張するチーム
このように身近なところで、ディベート訓練のためのテーマはいくらでも見つけることができます。
参加者の役割を決める
次にディベート訓練に参加する人たちの役割を決めます。役割としては、➀肯定派チーム、➁否定派チーム、③オーディエンスの3つです。訓練に参加する人数に応じてグループ分けをします。
このとき、希望を募って決めるのでもよいのですが、訓練で最も重要なことは、自分の意見と一致するチームに必ずしも入る必要はなく、むしろ、考えと違う方のチームに入るほうが論理展開の訓練には効果的だということです。
つまり、上述のテーマ例であれば、「足利義満の行動はおかしい」と感じる人は、否定派に入りたいと考えるはずですが、そうすると、感情的な自分の意見などが優先し、論理的な展開ができない可能性が高まります。
ディベート訓練に慣れていない人達に研修を行う場合、希望を聞いて逆のチームに入ってもらうようにすると、戸惑いが大きく、準備作業に時間がかかるかもしれませんが、冷静な立ち位置に立って、論理的な展開を行う訓練が効果的に実現できますのでお勧めの方法です。
チームの人員数は、2~3名が理想的です。実際のビジネス交渉の席でも、大人数で参加しても結局、話すのは2~3名で、ほかの人はフォロー役という感じなので、戦力として交渉する人数に合わせるほうがよいと思います。
参加者が少ないとオーディエンスを担う人がいない場合もありますが、その場合はやむを得ないので指導役の方が担うしかないわけですが、このオーディエンス役というのが重要なので、必ず訓練させるようにするのが理想的です。両者の話を聞くことは、交渉の席上で、相手の話をしっかり聞く訓練につながります。また、論理的な展開ができているか否かについては他人の様子を見せるのが一番の先生です。
チーム内での役割や取り組む方向性の話し合い
ディベート訓練では、個人の意見を思いつくまま述べるのではありません。テーマに応じて下調べを行い、戦術を練ってもらいます。必要に応じて、論証となる資料なども用意できると本格的です。
また、少人数のチームで役割を決めて、3名であれば、リーダー役、サポート役、記録役などの役割を決めたり、あるいは、担当分野別の役割としてもらうのもよいでしょう。
重要なポイントは、チームの中で大した役目がない見物人のようなチームメンバーを作らないようにすることが肝心です。
最初の研修時間内にチーム分けを行い、早速、チーム内で打ち合わせを実施させ、その様子を見ながら指導を進めるとよいと思います。要するに、研修時間内だけでは準備できない場合が多いので、チームの方向性を決める話し合いを指導し、その他個別の調査等は次回本番までの課題とするとよいでしょう。
ちなみに研修生が12名参加しているとすると、2つのテーマを準備して3名ずつの4チームに分けて、それぞれ対戦してもらうとよいと思います。
ディベートの対戦
冒頭、肯定派と否定派からそれぞれ意見を表明してもらいます。最も重要な点は、論理的な意見表明です。現代社会では、まずはパワーポイントを使ったプレゼンを行うのが一般的なので、例えば、40分間の討論時間であれば、最初の5~10分でそれぞれプレゼンを行い、その後互いに質問・指摘を行い、討論の中で、追加の資料提供等を行ってもらうと、オーディエンスの役目の人たちにも勉強になると思います。
肝心なことは、ディベートの最中では、極力、指導役の人はあれこれ注意しないところです。自由にやってもらい、講評の際に、改善点として指摘を行ってください。指導者が割って入るとどうしても研修生が委縮したり、オーディエンスの研修生の判断も左右してしまい、自分で考えなくなるので、割って入るのは控えるべきです。
評決と講評
評決は多数決できまります。上述の12名が参加して4チームに分かれている場合、肯定派3名、否定派3名、オーディエンス6名となりますので、6票のうち多くを得たほうが勝ちになります。同数の場合、指導者が票を投じて、引き分けはなしとしてください。
この引き分けはなしとするところが重要です。日本では、「どちらも頑張った」「優劣つけがたい」などといって引き分けにする美学のようなものがありますが、それでは訓練になりません。そもそも、協調性を重視するが故に討論を訓練しない文化なので、しょうがないと思うかもしれませんが、国際的なビジネス交渉の場で、引き分けを目指すというロジックは成り立たないと思います。
オーディエンスの役目も訓練の一環なので、できれば票を投じた理由や決めてを述べてもらってください。各オーディエンスの意見は、指導者の講評以上に、肯定派チームと否定派チームの各メンバーにとっても有意義なものだと思います。
最後に、指導者からの講評ですが、指導者が感想を述べてもしょうがないので、論理展開でよかった点、プレゼン、話術全般、質疑応答の進行などについて、具体的に指摘を行いながら講評していただくと訓練の効果が一層高まります。
専門的な指導がご入用であれば、「研修・講演のご案内」をご覧の上、是非一度、ご相談くださいませ。
皆さま、ディベート訓練の説明はいかがでしたでしょうか。国際的なビジネス交渉に成功できる人材を養成することが肝心です。皆さまの職場でもぜひ一度「ディベート」を試しに実施してみてください。